「刀子が死んだか……」
ビルの屋上の貯水タンクの上、神多羅木は夜空を見上げながら呟いた。
「結局バツイチのままか……かわいそうに……なんて言ったらあいつまた暴れるんだろうな」
普段なら刀子が暴れだして手に負えず結局高畑と二人掛りで取り押さえるというのがいつもの日常だ。
しかしもうその刀子はいない。神多羅木は刀子に対し恋愛感情こそ無かったが別の何か特別な感情は抱いていた。
穏健派の自分に対して冷静で厳しい刀子。その反面どこか抜けていて可愛い所もある。
安心して前衛を頼める程の腕前。そして彼女もまた安心して神多羅木に援護を任せる。
それほどまでにお互いに信頼しあっていた。

神多羅木は胸ポケットからタバコを取り出した。タバコを一本口に咥え火を点けると深く煙を吸った。
肺一杯に溜め込んだ紫煙を一気に吐き出すと煙は夜風に掻き消された。
「……パートナーのよしみで仇くらいとってやるか」
神多羅木はタバコを足で揉み消すと屋上から飛び降りた。



「か、神多羅木先生!?どど、どこから!?」
神多羅木が着地した数メートル先に弐集院がいた。
「上から見てたら丁度あんたが歩いてたからな」
一歩、二歩と徐々に間合いを詰めていく神多羅木。

「あんた……一体誰を殺した?」
異様な雰囲気に弐集院もジリジリと下がる。
「わ、私は人殺しなど……!」
「血の匂いがするんだ。正直に答えてもらう。一体誰を殺した?」
「その……せ、正当防衛だったんだ!向こうが襲ってきたから仕方なく……!」
「……誰に襲われたんだ?」
「シ、シャークティー先生と……く、葛葉先生に!」
神多羅木は何も答えない。ただサングラス越しに弐集院を見ているだけだ。

「だ、だから見逃してくれないか……?」

そして弐集院は少しずつ後ろに下がっていく。

(ピンチとチャンスは紙一重……あそこには爆弾が仕掛けてある)

更に後ろへと下がる。 それに合わせて神多羅木も前に出る。

(もう少し……奴は気付いていない!後はバッグの中にあるスイッチを押せば……!)

「何なら仲間に……いや、いきなりは信用できないだろう。まずは私の支給品をあげよう!私のは……(今だ!!)」



(おかしい……何故爆発しないんだ?ちゃんとスイッチを押した……あれ?何か変だ?)
神多羅木がタバコに火を点ける。
「教師っていう人と接することが多い仕事をやってるとな、なんとなく考えが解るんだ。ましてや裏の世界に通じてると尚更な」

(何を言っているんだ?それに右腕が熱い……それに感覚が……?)
弐集院は恐る恐る自分の右腕を見た。だがそこに自分の腕はない。何度目を擦っても右腕は無かった。

「う、うわあああああああああああああああ!!うでえええええええええええええ!!」
「それに刀子が人を襲うはずが無い。暴走することはあっても本気で殺そうとする奴じゃない」

神多羅木は右腕を出しフィンガースナップの構えを取る。
「ひぃぃぃ!くく、来るなああああああ!!」
何度もバランスを崩しながらも必死で逃げる弐集院に狙いを定める。
「じゃあな、豚教師」
乾いた音、風を切る音、肉と骨が切れる音、何か重たい物が落ちる音。
それらが立て続けに鳴るとそこには一人の男の死体が出来上がっていた。



「妙な気分だ……」
弐集院の死体を見下ろしながら呟く。
仇は取った。なのに心が晴れない。というより何も感じない。教授を殺した時も何も感じなかった。初めて人を殺したというのに。
よく映画や小説などでは罪の意識に囚われたり、優越感に浸りなど様々な感情が表れると聞く。
「だが俺は何にも感じない。後悔もない。嬉しくも、悲しくも……」
空を見上げる。雲一つ無いキレイな夜空にキレイな三日月。
「よくわからねぇな……俺は何がしたいんだ?」
三日月に向かってタバコは投げ捨てるとそのまま歩き始めた。
少しずつ、だが確実に神多羅木の心は狂い始めている。だが神多羅木はその変化に気付かない。

弐集院 死亡

【残り 5人】

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