ネギは気が付くと学園長室にいた。そこは麻帆良とは思えないほど重く暗かった。
「優勝おめでとうネギ君」
学園長の近衛近衛右門が椅子に座りながら笑顔でそう言った。
「何故こんな事をやらせたんですか……?」
ネギは静に、だが怒りを含んだ声で近衛右門に質問した。

「残念じゃがその質問には答えられんのぉ……」
「何故答えられないんですか!?」
あまりにも理不尽過ぎる。ネギは抑えていた感情を剥き出しにして詰め寄ろうとした。

「そいつに何を言っても無駄だ」

入り口からの声に振り向くとそこにはエヴァンジェリン・A・Kマクダウェルが腕を組んで立っていた。
「いい加減正体を現したらどうだ?」
「どういう……」
「流石は闇の福音と呼ばれただけある……隠し事は無理みたいだのぉ」
近衛右門は自分の顔を掴むと一気に剥がした。そこには別の新たな顔があった。
忘れもしないあの京都修学旅行での事件。ネギ達を苦しめた眼鏡をかけた京都弁の女。

「天ヶ崎千草……!」
「お久しゅうお二人さん」
「やはり貴様か……目的は?」
別段驚く様子もなくエヴァは千草に尋ねる。

「もちろんこの国を乗っ取るためや。そのためにまず麻帆良を押さえる。あの世界樹の魔力さえあればどんな鬼でも呼び出せるからなぁ。
 そのためにはあんた等魔法使いが邪魔なんですわ」
千草は扇子で顔を隠しながら続ける。

「このジジイもちょっと孫を人質に取って自殺をお願いしたらホンマに死におったわ。あとはわてがじじいになりすましたってわけや」
千草が何やら術を唱えると部屋のあちこちから鬼や物の怪が現れた。
「他の魔法使いは死にアンタも疲労困憊……そこの真祖はんも呪いで今は唯の少女。そちらさんに勝ち目はないどすえ?」
千草の言うとおりネギは立っているのもやっと。加えて今日はよりによって新月。エヴァが最弱の状態だ。

「このままじゃ……師匠ここは一旦……」
「逃げられまへんで?この部屋には結界を貼らせてもらいました。もう出る事も入る事も不可能どすえ」
千草は勝ち誇った笑みを浮かべると高笑いをしだした。だがその笑いを掻き消すようにエヴァは冷たく言い放つ。


「勝ち目がないのは貴様のほうだろ?」

その瞬間部屋の気温が一気に下がった。そしてエヴァから膨大な魔力が溢れてく。
「な、なんやその力!?あんた呪いで魔法が使えないハズじゃ……!?」
「じじいが自殺したらしいが……ついでに私の呪いを軽くしてくれたみたいだ。つまりは生贄ってやつだ。
 流石に完全解呪ではないがそれでもお前を捻りつぶすほどの力はあるぞ?」

エヴァ手をかざすと氷柱が鬼の頭に刺さり完全に消え去った。
「な……!!」
圧倒的な力の差を見せ付けるエヴァ。危険と判断した千草は脱出のため結界を解く呪文を唱えようとした。

「おっと。折角逃げられないようにしたんだ。もう少しそのままにしとこうじゃないか」
エヴァが指を弾くと千草の唇が凍りつき口を塞がれた。今まで体感した事が無い痛みにその場にのた打ち回った。
「そういえば世界樹の深部に何やら仕掛けてたようだな。散歩中のアルビレオが見つけて処分したようだがな」
千草の顔が絶望に歪む。エヴァはそれを冷めた目で見下ろしながら手をかざす。

「そろそろ終わりにするか……」
「待って下さい!」
「どうした?こいつのせいで大勢死んだんだ。憎いんじゃないのか?」
「憎いです……けどもう命を奪ったりとかはもう沢山です……」
もう目の前で人が死ぬのは耐えられない。たとえそれが憎むべき敵であっても。

「ふん……リク・ラク ラ・ラック ライラック……」
「エヴァンジェリンさん!!」
だがそんなネギの願いを無視してエヴァは呪文を唱えると指先から黒い霧が発生して千草を包んだ。
「殺しはしない。だが普通に生かさない。こいつは永遠に覚めない幻術をかけた」
霧が晴れると千草は白目を剥きピクリとも動かなくなった。

「世の中には死よりも苦しいことはいくらでもある。お前の生かすという選択が必ずしも正しいとは限らない。
 前も言ったが綺麗事だけでは前には進めん。あのゲームで何を学んだか……もう一度よく考えておけ」
そういい捨ててエヴァは部屋から出て行った。ネギはそれを複雑な表情で見送った。

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