「どうしても……」
二人は対峙している。
「どうしても、止めることはできぬか?」
お互い武器を握り締め。
「俺には目的がある。だから止めるわけにはいかない……」
真は銃を構えた。
「殺したくはない。できれば一緒に来てほしいが、それが無理なら俺の目の前から消えてくれ」
それに対応して楓も小太刀を構える。
「説得は無理……ならば力で止めるしかないでござるな」


勝負は一瞬だった。真が放った計5発の弾丸は紙一重で急所を外された。
楓は弾丸を喰らいながらも全く怯むことなく、正に捨て身のダッシュで懐に飛び込み心臓を一突きしすばやく引き抜いた。
胸の隙間からは夥しい量の血液が溢れ真はその場に倒れた。

「どうして……」

倒れた真を抱き起こした。

「どうして外した……」
「なんの……ことだ?」
「お主の腕なら避ける事ができないように急所を狙うことが出来たはずだ」
「予想以上にお前が速かった」
「本当のことを教えてはくれぬか?拙者を殺さない理由と、お主の目的とやらを」

楓の問いに真は目を閉じ一つ深く呼吸をすると口を開いた。


「お前が好きだからだ」

物心つく頃から血と硝煙の臭いに囲まれて生きてきた。仕事のために余計な感情は捨てた。
この学校に入学したのも仕事を円滑に進めるため教養と学歴のために来ただけである。

「だが、お前と会った……お前の強さ、優しさ、気高さ、すべてに惹かれた……」

最初は力を隠していることに警戒していた。しかし、いつしかその強さに尊敬し、優しさに憧れ、人間味に希望を見た。
楓といる時は仕事人でも殺戮マシーンでもなく、ただの男子中学生になれた。
このゲームのルールを聞き真は悩んだ。仕事人としての自分と一般人としての自分が頭の中で葛藤した。

「だがやはり……お前の笑顔が…………忘れられなかった」

楓は何も答えない。悲しみとも哀れみともつかぬ表情でただただ真を見下ろしていた。

真の目的は楓の優勝。だから他の生徒を殺してきた。
優しい楓はクラスメイトを殺すことはできない。
きっと主催者に対抗するという無謀なことをするに違いない。

「不器用な俺は……こうするしか、楓を…………」
「もういい、喋るな……!」
「生まれて初めてだったんだ……。人を……好きになるのは……」
「真……!」
楓の頬から落ちた雫が真の頬を濡らすと同時に真は瞳をスーッと閉じた。

「楓……す…………」

眠るように息を引き取った真を静かに横たえると楓は膝を抱えて座り込んだ。

「本当に、本当にお主は馬鹿で不器用でござる……。本当に…………」
傍にいる真の頭を撫でながら呟く。
「お主と生きたかったから拙者は対主催に回ったんだぞ……。お主がいたから………」
真の手を組ませると楓は立ち上がった。
「達者でな。あの世で会おう……」

その場を立ち去るその姿はとても悲しげなものだった。

背の高い楓がとても小さく見えるほど。



【出席番号18番 龍宮真】 死亡


おわり

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