どーも、日本一ダメな神官こと春日空っス。何やら雲行きが怪しいとのことで部活は早めに切り上げて下校中です。

「うぅ……寒ぃ……」

もうすっかり寒くなってきたこの時期、俺は一先ずコンビニに避難した。マガジンを立ち読みしてついでに肉まんも購入。
十分温まったところでいざ外に出た、時水滴が頭上にポタポタと落ちてきた。やがてその水滴はまるで滝のように降り注いだ。

「雨か……こりゃひでぇ……」

朝の天気予報では夕方から降ると言っていたな。というわけで折りたたみだが一応傘は持っている。
ふふふ、この俺に抜かりはないぜ!
鞄から折りたたみ傘を取り出そうとした時目の前を何かが猛スピードで駆け抜けた。
麻帆良の制服に赤毛で癖っ毛。後ろ姿だったがそれは見覚えがあった。

「村上さんか?」

どうやら彼女は傘を持っていないらしく走って帰っていた。しかし赤信号のところで止まってしまった。
あの交差点はなかなか信号が変わらないので有名だ。歩道橋くらい作れよといつも思う。
と、そんなことより村上さんがピンチなのでそっちをどうにかせんといかんな。


〜〜〜〜


「寒いよぅ……早く青になんないかなぁ」

よりによって雨なんてついてないなぁ……傘持ってきてないしお財布忘れたから傘買えないし。
今日は本当についてないよぉ……って、あれ?雨が止んだ?違う、誰かの傘が私の上に……

「ウッス。傘忘れたの?大変だねぇ」
「あ……そ、空君!?」

気付けば空君が私を傘に入れてくれていた。

「ほいこれ、タオル。部活のは別の使ってたからこっちは多分綺麗」
「あ、ありがとう……」

空君は鞄からタオルを取り出すとそれを私に貸してくれた。ちづ姉とは違う男の子の香りがした。


〜〜〜〜


やべぇ……タオル臭かったらどうしよう。
一応洗濯してあるし使ってないから綺麗だとは思うけどこの部活の鞄に入ってたからなぁ……
今のところ嫌な顔はしてないが……なにせ村上さんは演劇部だ。そんなの演技でいくらでも誤魔化せる……
好かれたい訳じゃないが嫌われたくはないのだ。うーむ……

「あ、そうそう。さっきコンビニで肉まん買ったんだ。村上さんにあげるよ」
「え!?い、いいよそんな!折角の肉まん貰うわけには……」
「遠慮すんなって。ぶっちゃけ今寒いでしょ?」

うわぁ……物で釣るとか俺最低だわ……


〜〜〜〜


どうしよう、なんか悪いなぁ。でも無理に断るのももっと悪いし、それに何より空君の言うとおり寒いし……
というか結構空君って優しいんだなぁ。なんだか少しドキドキしてきちゃった……

「あ、そうだ!はんぶんこしない?……はい、空君の分!」
「あ、ああ。サンキュ」


〜〜〜〜


村上さんは屈託の無い笑顔で半分にされた肉まんを俺に差し出した。とりあえずご機嫌は悪くないようだ。

………………あれ?こうしてみると村上さんって意外とかわいくね?
今まであまり関った事ないから気付かなかったけど、なんか素朴な可愛さというかなんというか……
まあだからと言ってどうしたいって訳でもないが、新しい発見というのは面白いもんだなぁ。

「うーん……やはり超包子のほうが美味いな」
「でも……すっごく温かくて美味しいよ」

とりあえず美味しいということは喜んでるってことか。タダより美味いものは無いってか。


〜〜〜〜


本当に美味しい。味云々じゃないだ。優しさが詰まってる感じ。
いいんちょがご馳走してくれた高級なスープよりもちづ姉のスープのほうが美味しかったのと一緒かな?
とにかく空君の優しさが凄く温かくて美味しかった。
気が付けば傘を私寄りに持ってくれてる。実際傘の殆どの面積を私に、空君は殆ど差していない状態だった。
いつもはあんなにヘラヘラしてるのに意外な優しさに私は驚いた。

「そういや村上さんって今日誕生日だっけ?」
「うん、そうだよ」
「むぅ……とりあえず今回は肉まんでよろしいかい?」
「ふふふ、空君らしいや。私はなんだっておっけーだよ。というか無理して大層なプレゼント貰っても困るし」
「ほんと村上さんっていい人だなぁ……最近の女の子とは思えないほど……」
「え?そそ、そうかな?」
「うんうん、村上さんみたいなタイプに弱い男は沢山いるからね。普通にいい子っていうのかな?」
「普通って言うなー」
「おおっとソーリー!口が滑った!」
「もう……!」





そうして二人は帰路についた。

寮の前に着くと千鶴が空達の帰りを待っていた。

「夏美、雨大丈夫だった?」
「うん、空君が傘入れてくれたから大丈夫だったよ」
「どうもありがとう春日君」
「いやいや、じゃあ俺はこれ……へぶし!!」

まるで保護者だなと思いながら空が別れようとした時、何者かによるとび蹴りで盛大に吹っ飛んだ。

「いってぇ……なんだよココネ!」
「…………」

とび蹴りの正体はココネだった。ココネはむすっとした表情で空を睨みつけている。

「なんだよ……いつになく不機嫌だなぁ」
「…………フン」

そっぽを向くココネに夏美は耳元で囁いた。

「私は空君のこと何とも思ってないから安心していいよ」

夏美の一言でココネは顔を真っ赤にして俯いてしまった。当の本人は相変わらず分かっていない様子だった。

「ほら、行くぞココネ」
「…………うん」

ココネの手を引っ張り空は去って行った。夏美はその光景が微笑ましく思えた。

「残念ね。空君にはココネちゃんがいて」
「わ、私は関係ないよ!」
「うふふ、はいはい」
「もう!ちづ姉ったら!」


でも今日の空君はちょっとカッコよかったかな?また機会があればお話しよう。




――雨の日も悪いことばかりじゃない。こんな発見があるから。


おわり


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