一人の少年「桜咲刹那」は木にもたれ掛かっていた。その体は傷だらけだった。
――もう限界か?体がうまく動かねぇ……ここで終わりか?龍宮は?……まだ戦ってる。すまない、最後まで戦えなくて……
――てか何で俺戦ってたんだっけ?
刹那は自分の左腕を見た。
――そうだ
この戦いが始まるほんの少し前、刹那は世界樹の下で自分と名前も境遇も同じ桜咲せつなという少女と一緒に過ごしていた。
『何してるんです?』
『ん、ちょっと…ハイ、出来た!』
せつなは自分の髪留めを刹那の腕に巻き付けた。
『これは?』
『御守り。絶対生きて帰ってきてね』
『……ああ、約束する』
――大切な人を守るためじゃないか!弱音なんか吐いてられない。
刹那の瞳に再び光が戻った。刹那は立ち上がると龍宮の方へと向かった。
「……!!何してる!大人しくしていろ!死にたいのか!」
「……龍宮、任務の依頼だ。聞いてくれるか?」
「何?」
「任務の内容は……彼女、せつなを影ながら支えてやってくれ」
「な!?オマエまさか……!?」
刹那は真っ直ぐと龍宮を見ていた。その顔は覚悟を決めた表情だった。
それを見て龍宮は悟った。もう何を言っても聞かないと。ならば今の自分に出来る事をすしかない。
「……いいだろう。報酬は、」
それは……
「報酬は『平和な日々』だ。…………行って来い」
それは彼を安心して送り出すこと。ただそれだけ……
「ありがとう」
刹那は真っ白な羽を広げると真っ青な空へと飛んでいった。
――ありがとうみんな。俺、今まですごく幸せだった。
――ネギ子先生、虐められたりもしたけど楽しかったです。いつまでも一生懸命でいてください。
――明日太さん、俺はあなたの元気に何度も救われました。ネギ子先生とお嬢様をよろしくお願いします。
――このちゃん、最後まで守れなくてごめん。でも安心してください。あなたは強い人です。だから立派に生きてください。
――せつな、こんな俺を愛してくれてありがとう。君には沢山の大切な物を貰ったよ。……残念だが約束は守れそうにない。
刹那は髪留めが巻きついている左腕を握った。
――でも、俺はいつまでもお前の事を見守ってやるから安心しろ。
「神鳴流剣士、桜咲刹那参る!!」
――五年後
世界樹の近くの墓標に二人の母子がいた。
「ただいま、あなた」
あの後、彼女は刹那の死を聞いた。彼女は大声で一日中泣いた。そしてしばらく無気力な生活を送った。
しかし、ある日彼女は夢を見た。刹那が出る夢だった。その夢の中で刹那は語りかける。
『俺はいつでもお前の事を見守ってる。だから俺の分まで生きろ。』
やがて子供が出来た。愛するあの人の子供。この小さな命を守るため強く生きる事を誓った。
そして現在に至る。
「おか−さん。おと−さんってどんな人だったの?」
「ん?そうね……格好良くて、強くて、優しかったよ」
「ふーん……じゃあ僕も強くなる!それでおかーさんを守るんだ!」
「ふふ……ありがと」
セツナの目には優しさが溢れていた。それを見たせつなはやはりあの人の息子なんだと思った。
(あなたの子は元気に育っていますよ)
二人はお墓の掃除をしてから手を合わせた。やがて帰る時間がやってきた。
「おとーさーん、バイバイ」
あなたが守ったこの平和な世界、一瞬一瞬、精一杯生きて行こうと思います。だから最後まで見守っててください。
輝く明日に、私達の未来に向かって、
「……いってきます。あなた」
『いってらっしゃい』
おわり
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