ある日の深夜、俺は居間から聞こえる不審な音で目が覚めた。鼠とは違うもっと大きいものの音だ。
俺は寝室に置いてある護身用の木刀を手にし、こっそりと居間へ向かった。
居間の前までつくと気付かれぬように襖をそーっと開け中を確認した。


どう説明するべきなのか……
この光景を友人に話したとしても間違いなく信じて貰えず、その上哀れみの目で見られることは間違いない。
確実に「電波」や「痛い奴」扱い、最悪冗談抜きに本気で心配されるかもしれない。それが一番辛い。

話しが逸れた。では俺が何を見たのか?
驚かないで聞いてほしい。

なんと部屋にはテレビに“ハマった”女性がいた。

テレビに“ハマった”と言っても食い入るように見てるのではない。
物理的に“体がテレビにハマっている”のだ。

その女性は画面から上半身だけを出し必死に残りの下半身を出そうとしている。

一体俺のテレビはどうしてしまったのだろうか?いつから通り抜けOKになったのか?
そんなことを考えているうちに女性の瞳からはみるみる涙が溢れていた。

流石に男としてこれは放っておけないと思い俺は電気を付けて部屋に入った。

「きゃ!だ、誰ですか!?」
「あんたこそ誰だよ……」
「わ、私貞子と言います……」

腰までありそうな黒く長い髪に雪のように白い肌で整った顔立ちの少女は貞子と名乗った。

「あの、手伝ってくれませんか?テレビが予想以上に小さく抜けなくなってしまって……」
「悪かったな小さくて……」

可愛い顔してさりげなく毒を吐く貞子という少女に青筋を浮かべながら渋々と手伝うことにした。

「じゃあいくぞ」
「……は、はい」

貞子の手を掴んで驚いた。
手が恐ろしく冷たかったのだ。冷え症とかのレベルではなく、まるで生気がないかのように。

「ん〜……あと少しですぅ……!」

そう言った途端にスポンと体が抜け、その勢いで貞子が俺に覆い被さった。
気付けば貞子は全身びしょ濡れだった。その濡れた髪や体と踏張った影響で赤く上気した顔がやけに色っぽく見えた。

「ご、ごめんなさい!」
「い、いや別に……それよりなんでテレビに?」
「じ、実は私……幽霊なんです……」

まあ、テレビにハマるという非現実的な出来事と異様に冷たい体から予想は出来ていたが。

「じゃあなんで俺のテレビに?」
「あなたを…すため……」
「は?」
「あなたを呪い殺すためです」

まてまて!貞子は今なんて言った!?俺を呪い殺す?Why?何故?冗談やめろ!マジ危な……

失礼、別の作品が出てしまった。
だが本当にわからない。俺は呪い殺されるようなことをしたか?

「なあ、俺なんかしたか?」
「ビデオを見たからです」
「ビデオ?一昨日借りたAVのことか?あの女優はあんただったのか?」
「違います!呪いのビデオのことです!あなた水谷隆さんですよね!?」
「ああ、まあそうだが……」
「五反田在住の水谷さんですよね?」
「ここ御殿場だが……」
「え……」

俺の一言で貞子は固まった。念のため携帯のGPS機能で現在位置を調べ見せてやった。

「ほら、御殿場だろ?」

貞子は真っ白になってしまった。

どうやら貞子は五反田と御殿場を間違えたようだ。
そしてたまたま同姓同名の俺の所に来たということだろう。


うん、とてつもない天然ドジっ娘だ。

「で、どうすんだ?五反田の水谷さんを殺しにいくのか?」
「期限を守らないと殺しちゃいけないんです。今から行っても間に合いません。それに……」
「それに?」
「テレビが小さいのであまり通りたく……」
「はいはいすいませんね」
「そんなわけでしばらく置いてくれませんか?」

「え……?」
「お願いします……」

髪の隙間から見える上目遣い。並大抵の男では断るのは不可能なほどの破壊力だった。

「わ、わかったよ……」
「やったー!ありがとうございます!」

悪霊(?)との共同生活に不安を感じながらも素直に喜んでいる貞子を見て微笑ましく思うのだった。



おわり

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