「さあ、今日はオイラの奢りアル!遠慮せずに食べるアルヨ!」
夜のピークを過ぎ客も疎らな超包子で古菲はハルナに満面の笑みでそう言った。
「ありがとう。いや〜でも悪いねぇ、荷物持ちやらせた挙げ句奢ってくれるなんて」
今日は知る人ぞ知る夏の祭典でハルナはそれでついつい買いすぎてしまいその荷物の量に困っていた。
そこへ偶然会った古菲に事情を説明して麻帆良まで持ってきて貰ったのだ。
「荷物くらい気にするなアル。あれも修業!それに今日はハルナの誕生日アル!」
そう言って片っ端からメニューを注文した。
「ちょ、そんな頼んで大丈夫?」
「残したらオイラが食べるアル」
「そうじゃなくてお金よお金」
「無問題!この日のためにしっかり働いたアル!」
修業もこなしてさらにここで働いて……それでも嫌な顔一つせずいつも馬鹿みたいに笑っている。
ハルナはそんな古菲を見て心配していた。
「ほうひはアルカ?」
「え……ううん、何でもない」
料理を頬張りながら間抜けな顔で尋ねる古菲。その微笑ましい光景を見てハルナは少し気が楽になった。
いつからだろう?ここまで彼を気にしだしたのは……
のどかや夕とは違う、また別の大切な存在になったのはいつからだろう?
「ねえ、くーへ」
「なにアルカ?」
「ネギ子ちゃんのことどう思ってるの?」
「き、急になにアル!?た、ただの弟子アル!」
「じゃあ超りんは?」
「そ、それも大切な親友アルヨ!」
ハルナの突然の質問に真っ赤な顔で答える古菲だった。それを見たハルナの表情は複雑だった。
やっぱり彼にとっての大切な存在はその二人なんだ。
じゃあ私はなんなんだろう?ただの友達なのだろうか?ただのクラスメートだろうか?
だから私は勇気を振り絞って聞こうとした。
「じゃあさ、わた……」
「古部長!手合わせお願いします!」
「今日こそ古部長を倒してやるぜ!」
「おお!望むところアル!」
ハルナが言いかけたその時、突然現れたいかにも格闘家らしい風貌の男によって遮られた。
古菲もそれに二つ返事で了解した。
「すぐ終わるから待ってるアル!」
「うん……気をつけて……」
――私のことをどう思う?
もしあの時邪魔が入らず聞けてたら彼は何と答えるだろう?
――大切な友達アルヨ!
恐らくそんな返事が返ってくるだろう。きっといつも見せる屈託の無い笑顔で。
その笑顔が今は痛い。胸にチクリチクリとくる。
贅沢な願いかもしれない。でも女の子なら誰だってその願望はある。
その友達の先の関係に……
「まだまだアル!修行をするヨロシ」
彼の言う通り本当にすぐに終わった。彼より何倍もある体躯の男達をみんな綺麗にKOしていた。
「時間も遅いしそろそろ帰ろう……?」
「……?ああ、そうアルね」
暗く人気の無い夜道を二人は無言で歩いてた。普段の二人では想像できないほどの静けさだった。
普段私はみんなの前では強がってる。図書館探検部でも頼られてよく姉御ポジションとも言われたりもする。
でも本当は唯の臆病者だ。人の色恋にはあーだこーだ言う癖にいざ自分がそうなるとなにも行動が起こせない。
私の描く漫画ならこのシチュエーションになったら必ず押し倒す。でも実際は押し倒す所か手を握ることすらできない。
会話をする勇気すらない。情けない。悔しい!
「大丈夫アルカ?」
突然彼が私の頭に手を乗せて優しく撫で始めた。
「さっきから様子が変アル……オイラ何か悪いことしたアルカ?」
そこには彼の心配そうな顔があった。彼は考えうる原因をあれこれ挙げている。
違うの……あなたのせいじゃないの……。
「それとも頼んだ料理が……」
「違うの!!」
辺りに絶叫が響いた。
「違うのよ!私の勝手な……悩みなの!だからくーへは関係ないの!!」
私は走り出した。これ以上彼に泣き顔を見せたくなかったから。弱い自分を見せたくなかったから。
でも所詮は一般人の足。彼にあっさりと追いつかれ腕を掴まれた。
「ちょっと待つアル!」
「離……」
視界が真っ暗になり何かに包み込まれるような感じがした。それが彼に抱きしめられてるとわかるのに数十秒かかった。
「関係なくないアル。だってハルナはオイラにとって大切な人アル」
「大切な……人…………?」
「ウム。だから一人で抱え込まずにオイラにも相談するヨロシ」
胸がドキドキする。彼に抱きしめられてるからだろうか?
「ハルナは本当は一人で抱え込めるほど強くないのはオイラが一番わかってるアル。だからオイラがいる」
彼の一字一句が胸に響く。
「見返りとか何も無しに唯純粋にハルナを守りたいアル」
体中が熱くなり頭が沸騰しそうだ。
「その……何というか……特別というか……超やネギ穣ちゃんとはまた違う…………」
彼も顔が赤くなっている。それがなんだか可笑しかった。それと同時に嬉しさが胸一杯に広がった。
今なら聞ける。
先程言いそびれた質問を……。
――私のことをどう思う?
今年は最高の誕生日プレゼントになりそうだ。
おわり
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