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「雪だ……」

俺は電車の窓から見える雪を見て呟いた。終電間近の誰もいない電車だから堂々と独り言を呟ける。
東京に来て数年、初めて雪を見てなんだか嬉しくなった。実家じゃ嫌と言うほど見てきたのに。

「そういえばあいつら何してんだろう……」

故郷で別れたあいつら。みなそれぞれの道を歩んでるはず。
家業を継いだ奴、普通に就職した奴、進学した奴……


『俺はミュージシャンになる』
『マジかよ!?じゃあ武道館呼べよ!』
『テレビ出るとき教えろよ』


あの頃が懐かしい。漠然と未来を夢見て叶うと信じキラキラ輝いてた目。
それが今じゃどうだろう。バンドは全く売れず生活のためバイト尽くしの毎日。
窓に映る死んだような顔を見てると憂鬱になる。

「次は〜〇〇〜」

電車を降りると雪が一層激しさを増して降っていた。
冷たい空気が肌に刺さるのを感じながら人気のない寂しい改札を出た。
既に雪が数センチほど積もっており俺は足跡を残しながら帰り道を歩いた。
暗い夜道を歩く。この道はそのままあの世まで繋がっているのではないか?
暗闇の先には閻魔やら鬼がいる地獄が待ってるのでは?
そんな馬鹿げた事を考えるほど俺は病んでいた。

だが予想に反してか、俺は暗闇の先で光を浴びた。
その余りの眩しさに目が眩んだがすぐに目を開いた。


「この公園……」


見覚えのある景色。ブランコや滑り台などの位置など子供の頃散々遊んだ公園と全く同じだった。

「ここの傷と落書き……やっぱりこの公園……」



――〇〇くん……


聞き覚えのある声。何年ぶりかに聞いた大切な人の声。ここに来る前に別れた彼女の声。

そうだ、あの時もあの公園で彼女と過ごしたんだ。同じ雪が降っていたんだ。
俺が上京してミュージシャンになるって言った時彼女は笑顔でたった一言。


――頑張ってね


この一言がとても辛くとても嬉しかった。
俺は何も言わず抱き締めた。彼女も抱きしめてくれた。まるで我が子を送るような感じで優しく。
そんな昔のことを一瞬で思い出した。その彼女が目の前にあの頃とちっとも変わらない姿で立っていたから。


「久しぶりだね」
「ああ……」
「元気ないね」
「ごめんな、あんな大口叩いてこれだよ」
「……ねえ、まだこれ持ってる?」

そう言って彼女が取り出したのは半分に割れたピック。
彼女の誕生日でギターを弾いた時に割れたピックを半分ずつ持つことにした。
勿論今でも持っている。俺は右ポケットに入ってる財布からピックを取り出した。

「よかった、まだ持っててくれて。あ、ほら!ピッタリだよ!」

彼女はとても嬉しそうだった。それを見て俺も自然と笑顔になった。

「笑ってくれた」
「え?」
「本当はね、あの時引き止めたかったんだ。でも楽しそうにギターを弾く姿を見てたらそんな気持ちも薄れてった」

彼女がぽつりぽつりと呟く。

「応援しようと思った。どんなことになろうとずっと応援しようって」

彼女の言葉が頭に響く。

「だから頑張ってね。もっと楽しく音楽やってね。楽しそうに弾いてる姿が一番カッコイイんだから!」


あの頃とちっとも変わらない眩しい笑顔だった。




――ありがとう








彼は雪が降り積もる道で倒れていた。
彼が暗闇の先で浴びた光は何でもないただの車のライト。
彼が想像した通り暗闇の先はあの世だった。
しかし彼は笑っていた。
その手には半分に欠けたピックを持って。
彼の顔は生涯で一番の笑顔だった。


おわり

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