「待ちなさいシスター美空!」
「待てと言われて待つ奴はいねえっスよ!」

今日もシャークティと美空の追い掛けっこが始まった。
美空がイタズラをしてそれに制裁を与えようとするシャークティ。いつもの光景である。
大抵は捕まるか逃げ切って後日叱られるのがお決まりのパターンである。
しかし今日は少し違った。

「なーんとか逃げ切ったみたいだねぇ……」

美空は自慢の脚力でひたすら走り続け完全に撒いたのは麻帆良の外れの森付近だった。

「今回は結構走ったなぁ。こんなところまで来ちゃ……」
「美空殿」
「ギャーー!ごめんなさい!もう二度としませんから……って楓さん?」

突然の声に美空はシャークティと勘違いして土下座をして謝るがよく見ればクラスメイトの長瀬楓だった。
方やシスター服で土下座の姿勢の短髪少女。
方や忍装束で木に逆さ吊りの長身少女となんとも奇妙な光景である。

「悪事はよくないでござるな。よっと……」

楓はニッコリと笑うとくるくると回転しながら地面に着地した。
お見事と美空は褒めたい所だが生憎それどころではない。楓に自分がイタズラをして逃げていることがバレている。
武道四天王と言われあのプロの殺し屋、龍宮真名と渡り合えるという実力。普通に逃げ切れるわけがない。

「ちょっ!確かにイタズラは悪いかもしれないけどこれには深ーい訳があんのよ!」
「む……して深い訳とは?」
「それはその……」

美空は頭をフル稼働させてこの状況を打破する術を考えた。

「楓さんていつものほほんとしてるよね」
「そうかもしれないが何故でござるか?」
「飽きない?」
「何を言っておる。平和が一番でござろう?」

さも当然だと言わんばかりに答える楓に対して美空は人差し指を突き出しチッチッチと左右に振った。

「楓さんの意見も一理あるけどさぁ、人間やっぱ刺激が大事だと思うのよ」
「刺激?」
「そっ、刺激。実際脳に適度な刺激を与えるとなんたらかんたらが活性されてうんたらかんたら……」

美空は以前何かのテレビ番組で見たことを適当に並べ、あたかも正論であるかのように装った。
実際彼女自身もよく分かっていないのだがそこはバカブルーの称号を持つ楓。あっさりと真に受けてしまった。

「成る程、そういうことでござったか……」
「そういうこと。楓さんだって強い人と戦ってる時とか楽しいでしょ?特に学祭でたつみーと戦ったときとか」
「言われてみれば確かに楽しんでいたかもしれぬ……あいわかった。今回は見逃すでござるが程々にするでござるよ」
「サンキュー!さっすが楓さん!」

まんまと美空のペテンにはまった楓はニコニコと美空を見送る。
と、数歩ほど歩いて美空は振り返った。その表情は何かを企んでいるようだった。

「楓さんもイタズラしてみる?」
「せ、拙者は別に……」
「まあまあ、何事も経験。これも修行だと思って」
「むぅ……」

イマイチ乗り気ではない楓などお構い無しに耳元でイタズラの概要を伝える。
すると楓の表情がみるみるうちに楽しそうなものへと変わっていった。

「面白そうでござるな」
「でしょ?じゃあ頑張ってね!」




――翌日


「止まれ!止まらんと撃つぞ!」
「止まったら撃たれるでござろう!」
「いいから大人しく撃たれろ!」

今日は真名と楓の追い掛けっこが始まった。
楓が海老、オクラ入り餡蜜を食べさせ、それの報復に弾丸を食らわせようとする真名。珍しい光景である。
大抵は引き分けで終わる。しかし今日は少し違った。

「……っ!」

楓の頭上を斬撃が通りすぎた。僅かでも回避が遅れれば頭と胴体が離れていた。
殺意は明らかだった。

「貴様……絶対に許さんぞ!」
「いやぁ、少しでも二人が進展すればと……」
「黙れ!殺す!肉の一片たりとも残さず殺す!」

斬撃を放った者の正体は刹那。その手には『恋文』と書かれた紙が握られていた。

「このちゃ……お嬢様からの手紙と期待して行ってみれば……この屈辱貴様にわかるか!」
「刹那、遠慮なく突っ込め!援護は任せろ!」

流石に2対1ではちょっと刺激が強すぎるでござるよ……やっぱり平和が一番でござる……。



「ミソラ、今日は珍しく真面目に仕事してル」
「たまには平和的にのんびりしないと。みんなも程々にね♪」
「誰に言ってるノ……?」

おわり

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