退屈な授業も終わり下校の時間になった。

「亜子!明日お祭り行こ!」
「うん!ええよ!」

明日は夏祭り。クラスのあちこちでお祭りの計画をたてている。そんなクラスの様子をエヴァはつまらなそうに眺めていた。

「……下らん。帰るぞ茶々丸」
「はい。マスター」

エヴァは茶々丸を引きつれてとっとと帰ろうとする。

「あ、せっちゃんも明日お祭り行かへん?」
「は、はい。喜んで!」
「…………」

帰り際にエヴァはもう一度だけ教室に目をやる。その表情は少し寂しそうだった。



――翌日の夕方


エヴァはソファーに座り本を読んでいた。


――ドンドン……


遠くで太鼓の音が聞こえる。それを聞いて自然とページを捲る手が止まる。

(……祭りか)

窓の外を見ると大分暗くなっている。しかし遠くに明りが見える。おそらく祭りの光だろう。

「……茶々丸」
「はい」
「……その、ゆ、浴衣はあるか?」

エヴァは顔を赤らめながら茶々丸に問い掛けた。

「はい。ありますが……」
「よ、よし……準備しろ」
「了解しました、マスター」


――数分後

すっかり浴衣に着替えたエヴァ。前、後ろ、帯と何度も着付けを確認する。

「よし、行くぞ。茶々丸」

口では落ち着いた感じで喋っているがとても楽しそうである。




「茶々丸。あの赤い物は何だ?」
「あれはりんご飴と言う物です」
「そ、そうか……」
「マスター、食べたいのですか?」
「え?あ、いや、まぁ……」
「すいません一つください」

茶々丸はりんご飴を買うとエヴァに渡した。エヴァはしばらくそれを見てから恐る恐る食べた。

「……なかなか美味いな」

その後も色々な店を回った。その度に茶々丸に質問をしていた。

「わ、綿を食べるだと!?」
「あれは砂糖でできてるので食べる事が可能です」
「おい!何故当ったのに景品を貰えんのだ!?」
「マスター。射的は下に落ちなくては意味がありません」

こんな感じのやり取りばかりだがとても楽しんでいるようだ。その証拠に年相応の笑顔もちらほらと見られた。


やがて花火も終わり皆がぞくぞくと帰って行く。

「……終わりか。綺麗だったな。帰るぞ茶々丸」
「はい。マスター」

その帰り道、一つの集団が目に入った。

「楽しかったね!パパ、ママ」
「フフ、そうね」
「よし。来年も家族皆で行こうな」

幸せそうな家族。エヴァはそれをしばらく見ていた。
エヴァには家族がいない。気が付けば吸血鬼にされていつの間にか周りから人が離れて行った。
よってくるのは自分を退治しようとする輩ばかり。彼女は何百年間いつも孤独だったのだ。


しかし今は違う。


「……茶々丸。手を繋げ」
「はい」


暗い夜道に二つの影。

手を繋いで歩く二つの影。

それは本当の家族のように……




おわり

戻る