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「参ったなぁ……」

公園のベンチに座るスーツ姿の少年が手にしたタバコに火を点けながら呟いた。
彼は長谷川千雨。普段は大人しいが夜になればホスト(勿論違反である)と言うもう一つの顔がある。
その彼が現在悩みを抱えている。それは同室の少女の事だった。
明日はその同室の少女、ザジ・レイニーディの誕生日である。

普段ならプレゼントなどせいぜい仕事上の点数稼ぎくらいにしか渡さない。
だがザジは仕事とは無関係だ。それなのに何故渡す必要があるのか?

千雨は家事を一切やらない。全てザジ任せだ。それを文句一つなくやってくれる。夜の仕事も黙っていてくれている。
そんな彼女に千雨少なからず感謝の気持ちを持っている。こう見えても義理堅い男なのだ。

「つってもあいつの好きなもんとか趣味とかわかんねえしな……」
そんなことをぶつぶつと呟いていると目の前を朝倉和美が通り過ぎた。
(あいつなら色々知ってそうだな。聞いてみるか……)
そう思い朝倉を呼び止めた。

「あ、千雨じゃん。なにしてんのそんな所で?」
「別に……それより聞きたいことがあるんだが……」
「ザジちゃんの事?」
「――な!?何故それを!?」
「顔に書いてある。私にはわんのよ。んで、どうせ明日の誕生日のプレゼントが決まってないんでしょ?」

見事に当てられ返す言葉もない千雨の様子を見て朝倉はクスリと笑った。

「なに笑ってんだよ……」
「え?いやー昔と大分変わったなぁって。やっぱりいい奥さんと巡り合えたんだね」
「だ、誰が奥さんだ!別にそんなんじゃねーよ!」
「あははは!千雨ったら顔真っ赤にして可愛い!!」
「……っ!!もういい!テメェーなんかに聞いた俺がバカだった!!」

恥かしさの余りに怒った千雨はその場を去ろうと立ち上がった。
「まあまあ、待ちなさいって。悪かったよ」
「けっ!」
朝倉に呼び止められるも振り返らずそのままの状態で聞く千雨。
「一つ良い事教えてあげる。私がザジちゃんの立場なら何貰っても嬉しいよ。たとえそれが1円もしないガラクタだろうがね」
「……ああそうかよ…………」
また歩き出す千雨。朝倉がそれを寂しそうに見送っていると不意にこちらを振り返った。その顔は笑顔だった。


「サンキュー朝倉……」


そう言い残すとまた千雨は歩き始めた。そして朝倉の視界から消えていった。
「なんだかなぁ……ちょっとザジちゃんが羨ましいや」
朝倉も立ち上がり公園を去る。
「千雨、がんばんなよ」




ザジは走っていた。サーカスの練習が思ったより長引いてしまい時刻は8時を回っている。
(はやくしないとあの人が……)
寮に着き、ザジはショートカットのため木に登りそのまま自室の窓に飛びついた。

「おまえ……なんてとこから入ってんだ……」
「……ごめんなさい……今夕飯作るから…………」
「あー、それは別にいい」
「でも……」

そこでザジはある事に気がついた。料理の匂いだ。不思議に思いテーブルを見てみると見事な料理が並んでいた。

「これ……」
「その……今日お前の誕生日だろ?……だから……あんま美味くないかもしれねぇけど……」
「チサメ……!」
「うわっと……!!」
思わずザジは千雨に抱きついた。
「ありがとう……」
「あ、ああ……さ、早く手洗って来い。飯が冷める」

二人はテーブルに着く。が、一向にザジが料理に手をつけようとしない。
「どうした食わねえのか?」
「…………しい」
「はあ?」
「チサメに食べさせてほしい……」
「な!なに言ってん……」
「お願い……」
上目遣いで懇願するザジ。百戦錬磨のホストの千雨でもこれは耐えられるものではなかった。
(くそっ!反則だろこれ…!)
仕方なく自分のスプーンをザジの口元に持っていく。それを一口で食べた。

「ど、どうだ……?」
「……美味しい」
「そうか、よかった!それじゃ頂きま……」
ザジの美味しいの一言で安心した千雨は自分も食べようとしたときザジに腕を捕まれた。
「な、なんだよ?」
「……あーん」
ザジが自分にスプーンを向けている。先ほどとは逆の立場。
「んなの恥かしくて……」
「あーん」
上目遣いで(ry
結局恥かしがりながらもお互いに食べさせ合い夕飯は終了した。

しばらくの沈黙。時計の針の音だけが部屋に響き渡る。


「俺は……」

先に沈黙を破ったのは千雨だった。

「俺は人付き合いが苦手だ。だがお前は別だ。家事もやってくれる。プライベートも深入りしない。だからお前の事は気に入っている」

人差し指で頬を掻きながら続けた。

「こ、こんな事お前にしかやらないからな……た、誕生日おめでとう」

そのまま千雨はそっぽを向いてしまった。その顔は耳まで真っ赤だった。

「チサメ……」
「ん?」

返事をした瞬間唇に柔らかいものが触れた。それがザジの唇だと気付くまでしばらくの時間を要した。



「ありがと……チサメ」




おわり

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